年平均7.3%の賃上げ・・・。薬局経営は大丈夫?
人の問題って、業種を問わず頭の痛い話ですよね。
特に急激に進む賃上げは、小手先で何とかなる問題ではないだけに、早くからしっかり対策しておかなければなりません。
こんにちは。
元調剤薬局経営者で中小企業診断士・キャッシュフローコーチの梅崎です。
最近は調剤薬局や中小企業の資金繰りや経営改善のご支援を中心に活動しています。
先日、ベテラン診断士の先生方と交流する機会があり、私も参加してきました。
そこで「最近どんな経営相談が多いか」という話になりました。
多いのは補助金活用やコロナ融資の返済の資金繰り、そして「人の問題」。
調剤薬局も人の問題で悩んでいる経営者は非常に多いですね。
採用や定着率向上なども重要ですが、今回は「賃上げ」をテーマに考えてみたいと思います。
人件費は薬局経営における「最重要項目」
そもそも、人件費は薬局において最も重要な要素の一つです。
薬局のお金のブロックパズルを見ながら考えてみましょう。
一番左の売上から売上原価≒薬代を引いた残りが粗利。
粗利から固定費を引いたものが利益です。
この固定費のうち、人件費は68.8%を占めています。
ちなみにこのお金のブロックパズルの人件費には、役員報酬と役員以外の人件費が含まれています。
一般的には、人件費には以下のものが含まれます。
・給料賃金
・雑給
・役員報酬
・ボーナス
・退職金
・法定福利費
・福利厚生費
稼いだ粗利のうち、約7割が人件費として使われているわけです。
人件費が経営に与える影響が大きいのは一目瞭然ですよね。
労働分配率は薬局経営者が知っておくべき重要指標
ちなみに、お金のブロックパズルの人件費のところに
「労働分配率」
という文字と比率が記載されています。
なぜわざわざ労働分配率なんてものを記載しているのかというと、薬局経営において非常に重要な指標だからです。
労働分配率というのは企業が生み出した付加価値に占める人件費の割合のことです。
付加価値というのは、ここでは粗利のことだと考えてください。
厳密にはちゃんとした計算式があるのですが、厳密にやろうとしすぎると大変だしややこしくなりすぎますから、ここでは粗利で計算しています。
人件費2,472千円が粗利3,716千円に占める割合は66.52%になります。
【人件費2,472千円/粗利3,716千円】
ちなみに、この人件費2,472千円には役員報酬が含まれています。
今回の記事でも役員報酬込みの労働分配率を記載しています。
当然、役員報酬込みのほうが労働分配率は高くなります。
役員報酬を労働分配率に含めるかどうかは議論の余地があると思いますが、社長も薬剤師さんで管理薬剤師として毎日店頭に立っているという小規模薬局も多いですよね。
なので、役員報酬込みで労働分配率を計算して良いのではないかと、個人的には思っています。
薬局は医療サービスを提供する企業ですから、薬剤師さんをはじめ様々な「人」が欠かせません。
当然、人件費もたくさんかかります。
ですから労働分配率を気にかけておく必要があるのです。
さて、労働分配率が高すぎるとコスト高な経営になり、経営を圧迫します。
どれくらいが適正水準かは個々の企業が置かれた状況によって異なりますが、一般的には60%代以下が望ましいといえるのではないでしょうか?
賃上げが薬局経営に与えるインパクト
ここ数年、賃上げが避けられない状況になってきていますよね。
物価高が続いていて生活コストが上がっていることもあり、国も賃上げに取り組むよう促しています。
実際、最低賃金は大幅に上昇していますよね。
岸田政権時代は2030年代半ばに最低賃金1500円(全国加重平均)としていましたが、石破政権になって2020年代中に前倒しになりました。
どれくらいのペースで賃上げすることになるかというと、年平均7.3%になるそうです。
氷河期世代の私には信じられないくらいの上がり方です。
さて、お金のブロックパズルの人件費2,472千円のうち、役員報酬以外の人件費は1,899千円です。
役員報酬以外の人件費が7.3%増加するとなると、どうなるでしょうか?
1年目:1,899千円×1.073=2,038千円
2年目:2,038千円×1.073=2,187千円
3年目:2,187千円×1.073=2,347千円
すごい勢いで増えていきますね。
もちろん、人件費として計上されている額を単純に7.3%増やしたに過ぎないので、実際の給与の増え方等とは違いがあると思いますが、影響の大きさはイメージできるのではないでしょうか?
役員報酬は572千円ですので、役員報酬を含めた人件費総額は以下のように推移します。
1年目:2,038千円+572千円=2,610千円
2年目:2,187千円+572千円=2,759千円
3年目:2,347千円+572千円=2,919千円
もちろん、7.3%も増加するのは最低賃金だけなので、薬剤師さんなど最低賃金以上の給与で働いている人も全てこんなに賃上げしなきゃいけないわけではありません。
従業員さん全員を等しく7.3%ずつ賃上げしたら、という仮定のシミュレーションです。
さて、人件費アップ前の総額2,472千円の状態ですら、利益は123千円しかありません。
ここからさらに利息や税金の支払い、借入の返済や設備の更新などもしなければなりません。
それが、人件費が2,610千円にあがると、どうなるでしょうか?
なんと15千円の赤字に転落してしまいます。
※その他の経費は1,121千円のままかわらないとしています。
【粗利3,716千円-人件費2,610千円-経費1,121千円=-15千円】
2年目は164千円の赤字。
【粗利3,716千円-人件費2,759千円-経費1,121千円=-164千円】
3年目は324千円の赤字です。
【粗利3,716千円-人件費2,919千円-経費1,121千円=-324千円】
赤字が続けば、いつかは資金が付き、事業を続けられなくなります。
そうならないように対策を講じなくてはなりません。
賃上げに備える3つの方向性
急激な賃上げはまさに現在進行形の経営課題なので、「これが正解!」というものはないかもしれません。
利益が減りすぎないように、当面は役員報酬を下げて、人件費を下げるという方法もあるでしょう。
ただ、一時しのぎに過ぎないので、役員報酬を下げている間に別の手を打つ必要があります。
考え方としては、いくつかの方向性があげられるでしょう。
・給与の高い薬剤師さんの数を減らし、その分を事務さんなどで補う。
・DX推進や業務の効率化を進める
・残業を削減する
・パート等を活用して正社員が過剰な状態を抑える
など、人件費の上昇そのものを抑える方法が真っ先に思い浮かびます。
他にも、
・算定できていない加算を算定して粗利を増加させる
・在宅などの件数を増やして粗利を増加させる
など、売上を増やして粗利を増加させる方法もあります。
粗利が増えれば、人件費が増加しても賄うことができます。
他には
・売上原価を下げる(安く薬を仕入れる)ことで粗利を増やす
・その他の経費を削減して利益を増やす
など、コストダウンも一つの手段です。
どのような方法をとるにせよ、成果が出るには一定の時間がかかります。
余力があるうちに対策を講じなければ、資金が尽きることになりかねません。
賃上げにどのように対応するか。
賃上げをするとしたら、その原資をどのように作るかは、重要な経営判断です。
賃上げへの対応に正解はないのかもしれませんが、「うちは今後、こういう方向性に進んで、このくらいの賃上げを目指す!」という指標を持つほうが良いと思います。
もしお一人で判断するのが不安だったり、根拠のある経営判断をしたいと思われたら、ぜひご相談ください。
あなたが目指したい方向性をどう実現できるか、一緒に考えましょう。
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