情報化とともに小売店の生き方が変わる
これからの日本社会は、個店や小さなビジネスが活躍する時代になります。
そのためには、個店がさらなる進化を遂げるべきだと考えています。
なぜ、これからは個店が輝く時代なのか。
キーワードは「選択肢過多」「情報化の進展」「一番身近な専門家」です。
現代社会は情報が多すぎる
現代社会の一番の特徴。
それは超がつくほどの情報化社会だということ。
私たちは毎日、洪水のように情報を受け取り、その情報を処理しています。
そして、処理すべき情報が多すぎて、たくさんの人が疲れを感じるようになっています。
たくさんの情報があって困惑した。
あなたもそんな経験、したことありませんか?
私はつい先日、そんな体験をしました。
先日、妻が「私もキャッシュレスを始めようかな~」と言い出しました。
最近、どのお店でも使えるようになってますよね。
1歳3か月の娘を連れて買い物に行くときに小銭を出さなくて済むし、ポイント還元事業もあってお得ですからね。
どの決済方法が良いかな~、と、二人で色々情報を調べてみたんですが・・・
結局、「手持ちの交通系ICカードで良いや・・・」と放り投げてしまいました。
なんせ、種類が多すぎる!
画像はこちらからお借りしました
なんちゃらペイってのが大量にありますし、使える店も分かりにくいし。
夫婦揃ってアナログ派なので、ややこしすぎて検討するのを諦めちゃったんですね(笑)
実はこんな、選択肢が多すぎて選べない、情報が多すぎて処理しきれないという事例はたくさんあります。
例えばこんな実験があります。
選択肢が多すぎると、決断疲れを起こす
2007年に発表された論文に、こんな内容が紹介されています。
ドイツの3都市の新車販売店で、750人の顧客を対象に、次のような実験をしたそうです。
新車を買う時に、下記のオプションから一つずつ決めてもらったんだとか。
・56種類の内装色
・26種類の外装色
・25種類のエンジンとギアボックスの組み合わせ
・13種類のホイールリムとタイヤの組み合わせ
・10種類のハンドル
・6種類のバックミラー
・4種類の内装スタイル
・4種類の変速ノブ
項目、多いですよね(笑)
見ただけで「ウワッ、こんなに・・・」と声が出そうです。
そして、実際に車を買った人たちの多くが決断し続けることに疲れ、途中で「もう標準設定で良いです・・・」と検討を諦めてしまったのだそうです。
このように、選択肢が多すぎて選べなくなってしまうと、人は無力感を感じたり、満足度が下がったりします。
これを選択のパラドックスと言います。
要するに、人は選択肢が多すぎると、考えたり決めたりすることに疲れてしまう、ということです。
だから今、情報や選択肢が多すぎて疲れる人が増えているわけです。
だいたい、人間はもともと考えることが嫌いな生き物なんです。
人間は本来「考えることが嫌い」
そもそも、人間は考えることがあまり好きではありません。
人間は理解しやすい物事や情報に好感を持つ「処理流暢性の選好」と、新しい情報を処理することを嫌がる「認知的負荷の忌避」という二つの特性があります。
要するに、分かりやすいことが好き!難しいことは嫌い!ということ。
そもそも人間の脳は、物事を短絡的に考えるようにできています。
生き残るために、瞬間的に判断することが必要だからです。
例えば目の前に猛獣が現れたとき。
この猛獣はどんな動物だろうか?
食われる可能性があるだろうか?
なんて悠長に考えていたら、食われてしまいます。
「猛獣が出た!」という情報を受け取った瞬間、「逃げる!」という判断をしないと危険なわけです。
だから、もともと人間の脳は、深く考えるよりも短絡的に結論を出すように作られているわけです。
たくさんの情報を一つ一つ処理して判断するようには出来ていません。
にもかかわらず、今、日本は超がつくほどの情報化社会。
スマホをタップするだけで、山のように商品の情報もお店の情報も出てきます。
なにか商品の情報を調べようとすると、洪水のように情報を受け取ることになります。
その大量の情報を、脳が処理しなくちゃいけないわけです。
情報がありすぎて、検討することに疲れてしまっている。
そんな時代になっているんです。
ここに一つの調査があります。
7割が「商品情報が多すぎる」と感じている
この調査によれば、「商品情報が多すぎて困る」と答えた人は実に7割にのぼります。
冒頭で私たち夫婦がキャッシュレス決済の選択に困ったり、ドイツの方が車選びに疲れ果てたように、日本人の70%超が、多すぎる情報に疲れてしまっているわけです。
もちろん、情報化はさらに進んでいきます。
すると、情報に疲れる人たちどんどん増える。
そういう人たちが、我々に何を求めるようになるか。
この図を見てください。
野村総合研究所 生活者1万人アンケート(8回目)より
多くの情報を収集して、一番良いものを買う「徹底探索消費」は減少しています。
また、安ければ何でも良いという「安さ納得消費」も大幅に減っています。
お気に入りにこだわる「プレミアム消費」はほぼ横ばい。
増えているのは左上の、「価格」より「買いやすさ」を求める層です。
もちろん、買いやすさが求められる背景には、現代人は忙しいので、買い物に手間をかけたくないという理由もあります。
それだけでなく、どれだけ時間をかけて検討しても、次々と新しい情報が湧いてくる現代では、たくさんの情報を比較検討し、決断することに疲れている人が増えている。
だから買いやすさが求められるようになったのだと、私は考えています。
もう自分で情報を集めたり検討したりするのは面倒だ!
プロに教えてもらうほうが早い、と思う人が増えていくわけです。
実際、アメリカでも対話型サービスが増えていたり、ECの世界でも専門家がアドバイスするサービスが広がっています。
アマゾンが真似できない小売り 専門家が接客する提案型ECが拡大
買い物の時に「使っている人の評判が気になる」と答える人も激増しています。
たくさんの情報を自分で検討し、決断するのに疲れるからこそ、すでに使用した人の意見を参考にして、間違いないものを手軽に判断したいのではないでしょうか。
野村総合研究所 生活者1万人アンケート(8回目)より
ですから、これからはお客さんが「買いやすくなる」ようにすることが大切になります。
「買いやすい」の3つの条件
「買いやすい」というのは、買い物の手間を省く、ということです。
手間を省くためには、3つの条件があります。
1.近い
遠方に買い物に行く、というのは正直面倒くさいものです。
スマホでの買い物が増えているのも、出かけなくて済むから。
物理的な距離が近いのは買いやすさの大きな条件の一つです。
2.分かりやすい
これまで見てきたように、買い物時の手間の最たるものは、多くの情報を検討し、決断することです。
情報疲れから買いやすさを求めるお客さんにとって、商品の価値や使い方が分かりやすいのは大いに助かるはず。
なんてったって、人間は難しいことが嫌いで分かりやすいものが大好き。
疲れている人ならなおさらです。
3.選びやすい
情報が多すぎて検討、決断できないからこそ、情報疲れを起こしているわけです。
だからお客さんが比較検討したり、商品を選びやすいように、絞り込んであげることが喜ばれることになります。
近い・分かりやすい・選びやすい。
我々個店は、この3条件を満たしやすい存在です。
お客さんの生活圏内にお店がある。
たくさんの専門知識を持っていて、分かりやすく説明できる。
お客さんの仕事や生活背景を知ったうえで、最適の選択肢を提示できる。
そういう、お客さんにはコンシェルジュのような、一番身近な専門家を求めているし、そういう存在にになりやすいのが我々個店なんです。
「一番身近な専門家」になれば良い
情報疲れしている人にとって、一番面倒くさいのは「多くの商品情報を検討し、自分に一番合うものを決めること」です。
手軽に買うことが出来さえすれば良い、というわけではないんです。
「間違いないもの」を「手軽に」買いたいわけです。
そうなると、多くの商品情報や専門知識を持ち、その中から最適のものを選んでくれる専門店こそ、お客さんの望みにかなう存在、ということになります。
地域や顧客に密着したスモールビジネスは、お客さんにピッタリのものを選べる最適な存在です。
なぜなら、物理的な距離も近いし、顔の見える関係になりやすいから心の距離も近い。
そして人と人との付き合いもしやすいから、お客さんのことをよく理解できる。
お客さんの好みや望みを知っているだけでなく、仕事や家庭の状況も考えて、一番良いものを選んであげられる存在が、個店なんです。
お客さんからすれば、「あの店に行けば、間違いないものを教えてくれる」頼りになる専門家。
そういう存在になれば、お客さんに選ばれる店になります。
これが、今後の小売店の生き残り方です。
では、お客さんにとって一番身近な専門家になるためには、何をすれば良いのか。
そこには3つの条件があります。
1.豊富な商品知識と専門知識を持つ
お客さんにとって身近な専門家であるためには、専門知識を持つことは不可欠です。
だから我々個店はもっともっと勉強が必要です。
今は簡単にタダで情報が手に入る時代。
お客さんはたくさんの情報を持っています。
ネットでちょっと調べれば分かる程度の知識では、専門家として認めてもらうことはできません。
お客さんの方が商品情報に詳しいとか、お客さんの方が知識が豊富なんてことになったら、あなたはただの売り子になってしまいます。
モノの通過点の一つでしかなくなってしまいいます。
ただ商品を買うだけなら、ネットでも良いわけです。
商品の価値はもちろん、商品にまつわるストーリーや上手な使い方など、ネットに出回っていない情報を提供できることが大事なんです。
それとともに、お客さんのことをよく知ること。
お客さん一人一人に合わせた最適な提案が出来ることが、これからの個店に求められる役割です。
2.親近感と信頼感を生み出すツールを持つ
知識があるだけでは一番身近な専門家としては認めてもらえません。
知識を分かりやすく伝えることが出来なければいけません。
難しいことを分かりやすく伝えてくれるからこそ、頼りがいのある専門家とみなされるんです。
それから親しみも欠かせません。
誰だって、親しみの持てない人に自分のことを話したくは無いですし、愛着の湧かない店に通いたいとも思いません。
ですから、あなたの専門性を分かりやすく伝え、しかも人柄も伝えられる、ニュースレターなどのツールを持つことが条件になります。
3.最初から専門家として出会う
初対面はものすごく大事です。
新規集客の段階から、親しみの持てる専門家がいる店だ、と認知してもらいましょう。
最初にそう思ってもらえなければ、あとあとイメージを覆すのはとても大変です。
あのイエス・キリストも、こんな言葉を残しています。
「預言者が敬われないのは、自分の故郷、親戚や家族の間だけである」
少し語弊があるかもしれませんが、イエス・キリストは世界中にキリスト教を広めた最強のセールスマンとも言えます。
でもそのキリストも、故郷や親せき、家族からは敬われなかったといっています。
なぜか?
イエスはもともと、ナザレという土地の大工の子として生まれました。
イエス自身も30歳を超えるまで大工として過ごしていたんです。
ある時天啓を受けて布教活動をはじめ、多くの人に受け入れられるようになりました。
が、生地のナザレの人や家族、親せきからすれば、いつまで経っても「大工の倅のイエス」でしかないわけですね。
だからイエス・キリストが布教を始めても、「大工の倅が何を言う」と、取り合ってもらえなかったわけです。
私もそうです。
今でこそコンサルタントをしていますが、もともとは薬屋の次男坊。
コンサルタント以前に出会った人からすれば、いつまで経っても「薬屋のウメちゃん」なわけです(笑)
「ウメちゃん」が経営の話をいくらしても、ちゃんと聞いてくれる人はあまりいません。
ですから、最初の段階で「店の一店員」として認知されるのか、「頼れる専門家」として認知されるのかは重要な問題です。
チラシやWEBサイトなど、新規集客の段階から、あなたの価値観や想い、専門性が伝わるような集客に取り組んでください。
「売る人」から「選んでくれる人」に進化すべし!
情報過多の現代社会で求められているのは、お客さんの代わりに多くの情報を比較検討し、お客さんにとって一番間違いのない提案してくれる専門家です。
スモールビジネスはもはや、単なるモノやサービスの売り手では生き残れません。
お客さんに最適の選択肢を提案できるコンシェルジュのような存在に進化することで、お客さんに求められ、選ばれる存在になることが出来ます。
お客さんにとって親しみやすく専門知識の豊富な、一番身近な専門家のポジションを確立できれば、ビジネスはますます繁盛することになります。
想像してみてください。
あなたのことを信頼し、困ったことがあったり欲しいものがあった時に、真っ先に声をかけてくれる。
そんなお客さんがいつもあなたのお店に通ってきて、あなたが提案した商品を喜んで買ってくれる。
とても幸せなビジネスだと思いませんか?
そのためには、専門知識を磨き、お客さんのことをよく知ること。
関係性を作り、専門性を伝えるツールを持つこと。
自分は「専門家だ!」と意識すること。
この3つを欠かさず磨き続けましょう。
そうすれば、あなたのお店は日に日にお客さんが増え、末永く繁盛することが出来ますよ。
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