2026-06-18

事業を譲ったあとも、ずっと手伝っていませんか

事業を譲る準備を進めているけれど、気づけば経理も、金融機関とのやりとりも、仕入れの手配も、まだ自分たちがやっている。

そんな状態になっていませんか。

あるいは、もう後継者に譲ったはずなのに、奥さんが今も帳簿をつけ、自分が銀行に顔を出している。「最初のうちだけ」と思って手伝っていたのが、気づけばずっと続いている。

それ、いつまで続けられますか。
自分の代わりになる人は、育てられていますか。

この記事を読むとわかること

・事業承継で見落とされがちな「裏方の仕事」を誰が引き継ぐのか、という視点
・「今は回っている」体制が、長く続くとは限らない理由
・いつまでも手伝えないことを前提にした、引退に向けた準備の考え方

こんにちは。中小企業診断士・キャッシュフローコーチの梅崎です。薬局経営の現場を経験したのち、現在は調剤薬局をはじめとする中小企業の経営改善支援を行っています。

私は公的な機関の登録専門家として、事業承継のご相談にも対応させていただいています。支援の中心は、資産そのものの承継というよりも、ノウハウや後継者の育成、承継後の事業計画といった、目に見えない部分です。

その現場で、よく見かける光景があります。先代ご夫婦が裏方をずっと支えていて、その仕事を誰が引き継ぐのか決まっていない、というケースです。

この記事では、その「裏方の仕事の承継」という見落とされやすい話と、引退を見据えた準備について、お話ししていきます。

承継するのは「意思決定」だけではありません

事業承継というと、社長としての意思決定をいつ譲るか、という話になりがちです。もちろん、それも大事なテーマです。

ただ、現場で見ていると、見落とされやすいものがもうひとつあります。先代ご夫婦が担っている「裏方の仕事」です。

たとえば、経理。先代経営者の奥さん、つまり後継者から見ればお母さんが、ずっと帳簿をつけていることは少なくありません。

経理だけではありません。各種の手続き、場合によっては仕入れ、そして金融機関とのやりとり。こうした裏方の仕事を、先代の経営者やそのご家族がずっと担っている。

その一方で、後継者は職人的な仕事、つまり現場に入る仕事をしている。それで、今のところは回ってしまうので、ずっとそのままになっていたり・・・。

ここで、ひとつ気になることが出てきます。後継者の代になって、この裏方の仕事を誰かにやってもらうとなったら、どうしますか?

たとえば後継者の奥さんが、別のところで働いているとします。経理なんてやったことがない、という場合に、仕事を辞めて帰ってきて経理をやってもらうのか。それとも、外から人を雇うのか。

人を雇うとなれば、そこには人件費もかかってきますよね。今は「家族がやっているから、給料が安くても回っている」。でも、その前提で今の経営が成り立っているとしたら、代替わりのときに「この仕事、誰にやってもらうの」「いくらかかるの?」という問題が出てきます。

「今は回っている」が、ずっと続くとは限りません

先代ご夫婦が裏方を支えてくれているあいだは、遠目には問題がないように見えます。うまく回っているようにも見えます。

でも、それがずっと続けられるわけではありませんよね。

最初のうちは、手伝ってあげるのは自然なことだと思います。後継者も、最初は勝手がわからず困る部分がある。だから、その時期に支えてあげるのは、いいことだと思います。

問題は、それが長くなりすぎたときです。

ずっと先代が裏方を担い続けていると、いざ替わらなければいけなくなったときに、苦労することになります。そして、その「いざ」は、たいてい急にやってきます。

実際に、こんなことが起こります

これは、私が支援の現場で見てきた話です。

裏方の経理を、ずっとお母さんが担っていた会社がありました。計画上は、承継して2年目あたりから、お母さんの仕事を他の方に代わってもらう想定でした。

そのために、人を雇えるだけの収益を出せる仕組みを早めにつくる。そういう計画を、立てていました。

ところが、結局はお母さんが、ずっとやってあげてしまっていた。

そして、お母さんの体調が悪くなって、手伝えなくなって・・・。その結果、社長が一人で、裏方の仕事を抱えることになりました。

すると、本来やるべき仕事に手が回らなくなります。売上を上げるための仕事、お客さまを獲得するための仕事に、時間を割けなくなったのです。結局、良くなってきていた業績がまた、下がってしまいました。

大変なのは、それだけではありません。業績が落ちれば、資金繰りや金融機関への対応も出てきます。自分が裏方の業務を新しくこなしながら、いずれ誰かに引き継ぐために、それを教える必要も出てくる。社内の役割分担も、変えなければいけません。

こうしたことを、一度にやることになります。

「裏方を担っていた人が抜けたとき、誰がやるのか。その人件費をどう出すのか」。こういう課題は、珍しいものではありません。私が見てきたなかでも、1件だけではなく、何件も出てくる課題です。

私自身、事業承継については、調剤薬局のご支援はそれほど多く経験しているわけではありません。他業種・異業種の事業承継のほうが多いのですが、薬局でも同じようなことが起こり得ると思っています。ご家族が裏方を支えていて、その体制が長く続いている、という構図は、業種を問わずよく見られるものだからです。

「いつまでも手伝えない」を前提に考える

では、どうすればいいか。

「いつまでも手伝えるわけではない」ということを、最初から前提にしておくことだと思います。

本来なら人を雇ってやるような仕事、あるいは家族がやっているような仕事を、親心でずっと手伝い続けてしまう。これも、長くなりすぎると問題になります。

だからこそ、少しずつ仕事を譲っていく。誰かが代わりをしなければいけませんし、場合によっては人を雇う必要があるかもしれません。できるようであれば、自動化や効率化を考えてみることも、ひとつの方法です。

そうした準備を、無理が利くうちに進めておく。これが、急な代替わりで業績を落とさないための備えになります。

そして、もうひとつ。ご家族で、きちんと話し合っておきたいことがあります。

先ほどお伝えしたように、先代が安い給料で担ってくれていた仕事を、たとえば奥さんが仕事を辞めて手伝うとなれば、それは経営者の家計に直結する話です。裏方の仕事を誰が引き継ぐのか。人を雇うのか。その場合の報酬はどうするのか。こうしたことは、当事者だけで抱え込まず、ご家族とも納得のいくまで話し合って、準備しておきたいところです。

おわりに

先代ご夫婦が裏方を支えているうちは、経営はうまく回っているように見えます。でも、その「うまく回っている」が、ご夫婦の頑張りで成り立っているのだとしたら。それは、いつか終わりが来ます。

代わりになる人を育てて、自分たちが少しずつ離れていく。その準備は、できているでしょうか。

まだの方も、焦る必要はありません。ちょっとずつでいいので、「この仕事は、次に誰がやるのか」を考えてみるところから始めてみませんか。

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