金融機関はあなたの薬局のどこを見ている? 金融庁の資料からわかるチェックポイント

銀行や信用金庫とお付き合いのある経営者なら、「金融機関はうちの会社をどう見ているんだろう?」と考えたことが一度はあるのではないでしょうか。
決算書を提出したあと、担当者はどこをチェックしているのか。面談のときは、どんなことを確認しようとしているのか。相手がどんな視点で見ているのかが分からないと、なんとなく不安になりますよね。
実は、金融機関の視点を知るのに良い方法があります。金融庁が公表している『業種別支援の着眼点』という資料です。金融機関の現場職員向けに、業種ごとにどこを見て事業を理解すればよいかをまとめたもので、誰でも無料で読むことができます。つまり、金融機関側の目利きのポイントが、そのまま公開されているということです。
こんにちは。中小企業診断士・キャッシュフローコーチの梅崎です。薬局経営の現場を経験したのち、現在は調剤薬局をはじめとする中小企業の経営改善支援を行っています。
今回は、この『業種別支援の着眼点』をもとに、金融機関が医療機関をどのような視点で見ているのかを解説します。
この記事を読むとわかること
・金融機関が決算書や面談でどこを見ているのか
・薬局ならではの、押さえておきたい注意点
・金融機関とどう向き合えば、信頼関係を築けるのか
「業種別支援の着眼点」とは
『業種別支援の着眼点』は、金融機関の現場職員が業種ごとの事業性を理解し、経営支援に活かすために、金融庁がまとめた資料です。飲食業、小売業、建設業、製造業など、現在は12業種がカバーされています。
職員向けの人材育成ツールという位置づけですが、金融庁のホームページで誰でも閲覧できます。私たち経営者の側も、「金融機関がどこを見ているのか」を知ることができるわけです。
なぜ医療業と介護業の2つを取り上げるのか
残念ながら、この12業種の中に「調剤薬局」はありません。ただ、薬局経営に通じる業種が2つあります。「医療業」と「介護業」です。
医療業(小規模クリニック)は、診療報酬という公定価格で収入が決まり、来院患者数の確保が経営の生命線になります。調剤報酬で収入が決まり、処方箋枚数が経営を左右する調剤薬局と、収益構造がよく似ています。報酬の入金が請求の翌々月になるという資金繰りの特徴も共通しています。
介護業も、介護報酬という公定価格のもとで運営される業種です。体制やサービスを充実させることで「加算」が取れる仕組みは薬局の調剤報酬と同じですし、人材の確保と定着が経営課題になる点もよく似ています。
今回はこの2つの資料から、薬局経営にも通じるチェックポイントを見ていきます。メインは収益構造が最も近い医療業編とし、介護業編からも参考になる視点を取り上げます。
金融機関は「医療の中身」ではなく「経営の裏方」を見ている
資料を読んでまず分かるのは、金融機関は医療行為そのものに助言することはできない、と割り切っていることです。
そのぶん、経営者が診療に集中することで後手に回りがちなバックヤードの部分――事業全体の収益構造や財務上の課題、設備更新の回収見込み、労務の問題など――を支援しようと考えています。
そのために重視しているのが、事業構造を理解することと、数字をタイムリーに把握することです。さらに、厚生労働省の公表資料からも業界の実態をつかもうとしています。担当者は感覚で見ているのではなく、こうした準備をした上で決算書や面談に臨んでいるわけです。
では、具体的にどこを見ているのでしょうか。
チェックポイント① 売上高の推移
金融機関がまず見るのは、売上高の推移です。
資料には、クリニックは売上原価の割合がとても低いため「売上≒粗利益」に近く、損益に直結すると書かれています。
ただ、ここは薬局と大きく違う点です。調剤薬局には薬剤費という原価があります。クリニックのように「売上≒粗利」とはいきません。ですから薬局の場合は、売上高だけでなく、粗利の推移もあわせて見られていると考えた方がいいでしょう。
収益の源である売上と粗利。金融機関がまず確認してくるのは、この部分です。
チェックポイント② 人件費率の推移
次に見られているのが人件費率です。
医療は、人によって成り立つ労働集約的な業種です。資格を持った人がサービスを提供することで収益が生まれるため、人件費は単なるコストではなく、事実上の売上原価とみなせると資料には書かれています。これは、薬剤師がいなければ成り立たない調剤薬局も同じです。
資料によると、一般診療所の人件費率(人件費÷医業収益)の平均は45.1%で、概ね50%前後が目安とされています。
薬局の場合は、薬剤費という原価があるため、売上を分母にするか、粗利を分母にするかで数字が変わります。粗利を分母にした労働分配率で見ると、業種別審査事典を参考指標にした場合、調剤薬局では60%台半ばくらいになります。
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金融機関も、医療や薬剤師の採用競争が激しく、単純な人件費の多寡だけでは測れないことは理解しています。人手不足で人件費が上がりやすい状況は、分かってもらえているということです。
それでも、人件費の割合は重要なポイントとして見られています。特に注目されるのは、人件費率に大きな変化があったときです。人件費が大きく増えたのか、売上が大きく減ったのか、評判が変わるような出来事があったのか。その要因を確認しようとしてくるわけです。
チェックポイント③ 経営者の「実際の取り分」
3つ目は、経営者の報酬まわりです。
資料では、役員報酬に加えて、配偶者などへの給与、オーナー社長から借りている土地・建物の家賃、交際費なども含めて、実質的には経営者の取り分とみなせる場合がある、と書かれています。こうした部分も、金融機関は気にしているかもしれません。
借りている側からすれば、「きちんと返済できているのだから問題ないだろう」と思いがちです。ですが貸している側からすると、そのお金がどこから出ているのかが気になります。そこが見えないと、かえって不信感につながることもあるのです。
このあたりの細かい着眼点は、ぜひ一度、原文を読んでみてください。
チェックポイント④ 実際の資金繰り
最後は資金繰りです。
資料では、流動比率や簡易キャッシュフローといった指標だけで資金繰りを判断するのはリスクがある、と書かれています。金融機関側も、表面的な指標だけでパッと判断するのは危ういと考えているわけです。
医療業については、一定の患者数が確保できて内部留保が積み上がれば、資金繰りは安定しやすいとされています。ただ、ここは薬局とは少し違う部分です。薬局は薬剤費(在庫)の負担が大きく、単純に同じとは言いづらい。高額な薬がまとまって出れば、その分の支払いが先行して、一時的に資金繰りが苦しくなることもあります。
金融機関は、こうした薬局特有の事情や、設備投資の予定なども含めて、資金繰りの実態を把握しようとしてきます。だからこそ、経営者の側も自社の資金繰りを自分の言葉で説明できるようにしておくことが、信頼関係を築く土台になります。
訪問時の現場チェック
ここまでは決算書から読み取る視点でしたが、金融機関は実際に薬局を訪問したときにも、いろいろなところを見ています。
たとえば、1日あたりの患者数(薬局なら処方箋枚数)や、人件費の内訳――どんな資格の人が何人いて、勤続年数はどのくらいか、といった点です。数字の裏にある「人」や「現場の状態」を確認しようとしているわけです。
このあたりは、それぞれ掘り下げると長くなるので、また別の記事で取り上げます。ここでは、決算書だけでなく現場も見られている、という点を押さえておいてください。
介護業の資料に共通する視点
ここからは介護業の資料です。介護業も介護報酬という公定価格のもとで運営される、薬局と通じる業種です。
まず、加算についてです。介護報酬には、体制や取り組みに応じて基本報酬に上乗せされる「加算」があります。これは薬局の調剤報酬も同じ構造です。加算が収益に大きく影響することは、金融機関も理解しています。ですから、自社が加算を取れているのか、これから取ろうとしているのか、取るにはどんな取り組みが必要なのか――こうした点を自分の言葉で説明できると、話がスムーズになります。
もう一つ、介護業の資料で目立つのが、「人」に関する記述の多さです。
介護業は、医療業以上に労働集約的な業種とされています。そのため資料では、人件費はもちろん、人員の配置や採用・定着、省力化に向けたテクノロジーの活用まで、人にまつわるさまざまな視点が挙げられています。
これは薬局にも通じます。薬局も、薬剤師という資格者がいて初めて成り立つ、人が中心の事業です。人材を効率よく活用できているか、機械化や省力化を進められているか。こうした視点は、労働集約型の業種だからこそ、金融機関も気にして見てくる可能性があります。
さらに、もし設備投資の予定があったり、「いつ頃こんな投資をしたい」という考えがあったりするなら、それを金融機関に相談して支援を受けるという形もあります。投資の話を前向きに相談できる関係があると、いざというときに心強いものです。
まとめ
今回は『業種別支援の着眼点』をもとに、金融機関が医療業・介護業をどう見ているのかを、薬局に引きつけて見てきました。
金融機関は、こうした着眼点をもとに事業を理解し、支援しようとしています。だからこそ大切なのは、自社の数字や状況について、自分の言葉で説明できるようにしておくことです。「なぜこの数字なのか」「自分はこの先どうしていきたいのか」を伝えられるかどうかで、金融機関との関係は大きく変わってきます。
設備投資のような前向きな取り組みも、考えを整理して伝えられれば、支援を受けられる可能性があります。今すぐの予定でなくても、「いつ頃、こんなことをしたい」という先の考えを計画として持っておく。それが、いざというときに自社を助けてくれるはずです。
各チェックポイントの細かい部分は、また別の記事でより詳しく取り上げていきます。気になるところから、一緒に整理していきましょう。
参考:金融庁『業種別支援の着眼点』
https://www.fsa.go.jp/policy/chuukai/gyousyubetu.html
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