名ばかり経営者になっていませんか?肩書きだけ渡しても承継は終わらない

事業承継のご支援をしていると、先代から経営を引き継いだ社長から、こんな愚痴を聞くことがあります。
「自分が何を言っても、もう無駄なんですよね」「どうせ会長が後からひっくり返すから、もう黙っておこうと思って」。
肩書きは社長に変わっているのに、いざ何かを決める場面になると、周りも本人も会長(先代)を見る。あるいは、社長が自分の意志を持って動いているのに、その頭越しに会長が現場へ直接指示を出してしまう。
こういう場面を、よく見かけます。
こんにちは。中小企業診断士・キャッシュフローコーチの梅崎です。薬局経営の現場を経験したのち、現在は調剤薬局をはじめとする中小企業の経営改善支援を行っています。
肩書きだけは移ったのに、実権は移っていない。これがいわゆる「名ばかり経営者」の状態です。
これは、会社に限った話ではありませんよね。どんな組織でもよくあることです。引退したはずの人が発言権を持ち続けて、今のトップをないがしろとまでは言わなくても、今のトップよりも先代の方が重視されてしまう。
これだと、組織はどんどん弱くなっていくと思うのです。
名ばかり経営者の状態が何を引き起こし、そこからどう抜け出していけばいいのか。一緒に考えていきましょう。
この記事を読むとわかること
・名ばかり経営者の状態が、組織にもたらす3つの弊害
・先代が実権を手放しても、会社を支え続けられる関わり方
・親子だけでは話しづらいときに、第三者を活用する具体的な動き方
引退したはずの人が実権を握り続けると、何が起きるか
先代が現場に居続けること自体が、悪いわけではありません。ただ、実権を握ったまま離さないとなると、いくつかの問題が出てきます。
ひとつ目は、時代感覚のずれです。
今の事業環境の変化、顧客のニーズ、社会のあり方、業務のプロセス。そういったものについていけていない、ということは多いものです。
時代に合わない戦略を取ろうとして、金融機関からも賛同が得られない。従業員も、ときには家族でさえ「それはもう無理じゃない」と思っていることを、やろうとしたりする。
今の経営状況を考えれば優先順位が違う。「そっちじゃないよね、やることは」と思うようなことをやってしまう。そういうことが、けっこうあるのです。
ふたつ目は、現場の混乱です。
大御所である先代が、社長を頭越しにして現場へ直接指示を出す。すると現場は、どちらの言うことを聞けばいいのか分からなくなります。
社長と先代から異なる指示が出れば、現場は大混乱です。
やがて、冒頭の愚痴のように、社長自身も「どうせ会長がひっくり返すから」と、だんだん口を閉ざしていく。やる気もなくしてしまうのです。
リーダーがそうなってしまえば、組織は弱くなる一方ですよね。
みっつ目は、後継者に経験を積ませてあげられないことです。
「立場が人を作る」とはいいますが、その立場に見合った経験がなければ、やはり人は育ちません。
後継者が頼りなく見える。でも、それは任せていないからだ、という場合もあると思うのです。もちろん、それが全てではないでしょう。
それでも、後継者は後継者なりにしっかり考えているのに、それにふさわしい立場や扱いを与えられていない。そういう場面はあります。
経営者は、自分で考えて、しんどい思いをして、頭に汗をかきながら育っていきます。嫌な思いや恥ずかしい思いをすることもあるでしょう。
それでも、自分に責任がのしかかってくる立場になることで、経営者としての自覚が芽生えてくる。
ところが、先代が実権を握り続けていると、後継者はこの経験ができないのです。
だからこそ、後継者に早めに任せる
経営者、特に創業者にとっては、自分の会社は半生を費やしてきた存在でもあります。ものすごく大事なものですよね。
だから、つい口を出したくなる。手を出したくなる。その気持ちは、よく分かります。
でも、その事業が大事で、長く続けたいと願うなら。きちんとリーダーを育てて、次の経営者を育てて、経験を積ませて、強いリーダーにしていく。そちらの方が大事なのではないかと思うことがあります。
どんな人でも、加齢とともに時代に合わなくなってくる部分や、体力的に追いつかなくなってくる部分があります。だからこそ、しっかりサポートできるうちに引き継いであげる。
そのあとは、見守りながら、目は離さないけれど手は出さない。本当にそういう心境で見守ってあげて、いつでも支えてあげられる体制を取り続ける。それがいいのではないかと思います。
「亀の甲より年の功」が効いてくるのは、ピンチのときやトラブルが起きたときです。先代の助けが必要な場面はあります。先代がいらなくなる、というわけではありません。
ただ、直接手を出してしまうと、後継者は育たない。むしろ弊害が起きてしまう。だから、見守ることが大事なのです。
古いやり方のまま、止まってしまった会社
私が診断士になる前、実務実習というものがあります。実際に企業へ行って、診断と改善の提案をするのですが、そこで出会った一番の問題点が、まさにこれでした。
先代がずっと居座っている。会社のことを大事に思うからこそなのですが、そのせいで古いやり方がずっと続いてしまい、組織が硬直化していました。新しい事業展開もできなくなっていた。
後継者には後継者の思いがあるのに、実質的な権力は先代が握ったままなので、計画も改善も進まない。そういう現場でした。
戦略の前に、思いと価値観を引き継ぐ
つい口を出したくなってしまう。その背景には、コミュニケーション不足もあると思います。
先代が大事にしてきたこと。この会社の価値の源になっていること。信頼の源泉になっていること。そういったものをちゃんと共有しないまま引き継いでしまうと、後継者が会社の土台を揺るがすような変革を、簡単にやろうとしてしまう場合があります。
そうなると、先代から見れば「何やってんだ」という話になりますよね。
だからこそ、具体的な戦略や戦術の前に、経営者としての思いや価値観を、きちんと話して引き継いでいく方がいいと思うのです。
とはいえ、直接の親子間だと、こういう話はやりづらいこともあります。そんなときは、第三者を入れるのもひとつの方法です。
私が事業承継のご支援に入るときには、必要に応じて、まず先代からお話を聞いていきます。創業からこれまでの経緯。どんなことがあったのか。チャンスによって飛躍したきっかけは何だったのか。逆にどんなピンチを経験して、そのときどう思い、どんな手を打って乗り越えたのか。そこで学んだことは何か。今も大切にしている価値観は何か。
そういったことを聞いていくのですが、その場には後継者であるお子さんも同席して、横で聞いていることがあります。
すると、「ああ、そういうことを考えながら親父はやってきたんだ」「こういう価値観を大事にして、今までやってきたんだ」ということが伝わるのです。
実際に「そういうことを考えていたんだなというのが、分かりました」と言っていただくこともあります。
こうした思いや価値観の引き継ぎは、面と向かって直接伝えるよりも、第三者を入れる方がやりやすいのかもしれません。
先代へ、後継者へ
最後に、それぞれの立場でできることをお伝えします。
すでに引き継いでいる先代の方へ。社長のやっていることが何か違うと思えても、現場に口を出したくなっても、ちょっと我慢して、口出しをせずに見てみてください。
まだ引き継ぐ前、後継者が専務などの状態のときでも、何か任せてみて、口を出さずに見てみる。それをやってみてもいいのではないでしょうか。
後継者の方へ。自分の考えていることを、先代にちゃんと伝えてください。親子であっても先代ですし、代表が変わる前ならまだ経営者です。そこはリスペクトを持って接するべきだと思います。
そのうえで、ある程度自分の考えを伝えて、理解してもらう努力が必要です。
それでも、お互いに我慢したり理解してもらったりするのが、やりづらい。なんだか気恥ずかしい。そう感じる場合は、商工会や商工会議所を間に入れるという手もあります。
「事業承継について、そろそろ準備したいので、専門家を紹介してもらえないか」。そんな形で話を持っていく。きっかけは、補助金を使いたいという建前でもいいと思います。
「どういう手順で承継していけばいいか、整理しておきたい」。そんな入り方で専門家につないでもらって、気がかりなところを聞いてもらう。その中で、解決策を提示してもらう。
そういう動き方も、ありなのではないでしょうか。
肩書きを渡すだけなら、書類ひとつで済みます。でも、実権と、その奥にある思いまで引き継げたとき、承継はようやく本当の意味で完了するのだと思います。
前後の記事
コメントを書くにはログインが必要です





