決算書を見るときは「2期比較」では足りない。3期並べてみてください。

前の期より数字が下がっていると、「今年は良くなかったな」と落ち込む。反対に、数字が上がっていると、「持ち直したぞ」とほっとする。
決算書を前期と比較して、一喜一憂していないでしょうか。
この見方は、薬局経営では特に注意が必要です。なぜなら、前期との比較だけでは、見逃すものがあるかもしれないから。
こんにちは。中小企業診断士・キャッシュフローコーチの梅崎です。
薬局経営の現場を経験した後、現在は調剤薬局をはじめとする中小企業の経営改善を支援しています。
この記事では、決算書を2期ではなく、3期並べて見るべき理由をお伝えします。
数字の見方を少し変えるだけで、自分の薬局が本当はどのような状態にあるのかが、これまでより見えやすくなります。
この記事を読むと分かること
・銀行が決算書を3期分求める理由
・薬局で2期比較をする際の注意点
・薬局が3期分の決算書で確認したい数字
銀行はなぜ決算書を3期分求めるのか
金融機関に融資を申し込むと、一般的には決算書を3期分求められます。新たに取引を始める場合も、まずは3期分の提出を求められることが多いでしょう。
「1期分でも十分ではないか」と思うかもしれません。
3期分が一つの目安になっているのは、1期だけでは数字の傾向が分からないためです。
銀行は、今年の数字が良いか悪いかだけを見ているわけではありません。決算書を時系列に並べ、数字がどのように動いてきたのかを確認します。
利益や売上が良くなっているのか。悪くなっているのか。一時的に落ち込んだだけなのか。それとも、継続的に低下しているのか。
こうした流れを把握するには、少なくとも3つの時点が必要です。
2期だけでは、数字が上がったか下がったかしか分かりません。3期あれば、上昇傾向なのか、下降傾向なのか、途中で流れが変わったのかまで確認できます。
もちろん、期数が増えるほど詳しい分析はできますが、確認する側の負担も増えます。
返済力や経営状態の傾向を把握するという目的に対して、3期分あれば一定の判断ができる。そのため、3期分が一般的な目安になっていると考えられます。
薬局で2期比較が危ない理由
ここからが、薬局特有の問題です。
薬局の決算書を2期だけで比較すると、経営状態を読み違えることがあります。調剤報酬の改定が2年に1度行われるためです。
比較する2つの期が改定をまたいでいるのか、それとも同じ改定内容のもとにあるのかによって、数字の意味が変わります。
例えば、改定の影響によって技術料が下がった期があったとします。
その翌期に技術料が増えていれば、「前期より回復した」と受け止めたくなるでしょう。
しかし、さらにもう1期さかのぼってみると、改定前の水準にはまだ戻っていないかもしれません。
2期だけを見て「持ち直した」と判断していても、3期並べてみると、「前期よりは増えたものの、以前の水準には届いていない」という見方に変わります。
短期で見ると、直近の出来事が原因に見えてしまう
数字を短期間だけで見ると、直前に起きた大きな出来事を、業績変化の原因だと思い込んでしまうことがあります。
これは薬局に限った話ではありません。
以前ご支援した会社で、コロナ禍の前後に経営状況が大きく変わった会社がありました。
2期だけを比較すると、コロナ禍によって売上が大きく落ち込んだように見えます。実際、その影響があったことは間違いありません。
ところが、5期、7期と長く並べてみると、コロナ禍よりも前から売上の減少傾向が続いていたことが分かりました。
つまり、コロナ禍は業績悪化のきっかけの一つではあったものの、原因のすべてではなかったのです。
以前から構造的な問題があり、事業のあり方そのものを見直す必要がありました。
短期間で数字が大きく落ちると、人はその直前に起きた目立つ出来事に原因を求めがちです。
しかし、何期か並べてみると、「それ以前から変化が始まっていた」と分かることがあります。
薬局でいえば、「コロナ禍」の部分を「調剤報酬改定」や「門前医療機関の変化」に置き換えることができます。
改定の年に数字が下がると、つい改定だけが原因だと考えたくなります。
しかし、3期並べてみると、改定とは別に、門前医療機関の患者数が以前から少しずつ減っていたことが分かるかもしれません。
原因を一つに決めつける前に、数字を長めに並べて確認する。その一手間が、経営判断の精度を高めます。
説明できる赤字と、説明できない赤字
3期分の決算書を確認することは、金融機関との付き合い方にも関係します。
銀行は、3期分の利益がどのように推移しているかを確認します。
3期続けて利益が出ていれば、安定して収益を上げている会社として評価されやすくなります。
一方、これまで黒字だった会社が今期だけ赤字になった場合は、その赤字が一時的なものなのかを説明する必要があります。その際には、説明を裏付ける資料も求められます。
連続で赤字になっている場合は、融資の審査もより厳しくなると考えられます。
(一般的に、2期連続赤字の場合は審査が厳しくなると言われています。)
ここで薬局経営者に知っておいていただきたいのは、赤字には「理由を説明できる赤字」があるということです。
例えば、次のようなものです。
・調剤報酬改定の影響
・門前医療機関の一時的な休診
・薬剤師採用に伴う先行投資
・新規開局に伴う初期費用
これらは、なぜその期に利益が減ったのかを筋道立てて説明できます。
3期分の数字を自分で並べて把握していれば、
「この期は、薬剤師採用によって人件費が先行しました」
「翌期には処方箋枚数が増え、利益も回復しています」
というように、自分の言葉で説明できます。
一方で、原因を説明できないまま、3期にわたって売上や利益が少しずつ下がっている場合は注意が必要です。
金融機関からの見方が厳しくなるだけではありません。経営者自身が、対策を講じるべき構造的な問題を見逃している可能性があります。
3期分を並べる作業は、金融機関に説明するためだけのものではありません。
自分の薬局に起きている問題を、早めに発見するための作業でもあります。
薬局が3期並べて確認したい数字
では、薬局が3期分の決算書を並べたとき、どの数字を確認すればよいのでしょうか。
売上だけを追っていても、薬局の本当の経営状態はつかめません。
少なくとも、次の数字はあわせて確認しておきたいところです。
粗利率
まず確認したいのが、粗利率です。
高額な医薬品の取り扱いが増えると、売上高は伸びても、粗利率が低下することがあります。
売上だけを見ていると、業績が伸びているように感じるかもしれません。しかし、粗利率が下がっていれば、実際には利益を生み出す力が弱くなっている可能性があります。
3期分の粗利率を並べることで、売上の増加が利益の増加につながっているのかを確認できます。
在庫
次に確認したいのが、医薬品在庫です。
在庫金額だけでなく、月商の何か月分に当たるのかという比率で確認すると、変化が分かりやすくなります。
前期と比べて在庫が大きく増えている場合は、そこに何らかの理由があります。
高額薬を抱えているのか。不動在庫が増えているのか。患者数や処方内容の変化によるものなのか。
3期分を並べることで、原因を調べるきっかけになります。
労働分配率
労働分配率も、3期分を並べて確認したい数字です。
薬局の場合は、粗利のうち、どれだけを人件費に充てているのかを確認します。
労働分配率が少しずつ上がっている場合、粗利の伸び以上に人件費が増えている可能性があります。
採用や賃上げが必要な局面もありますが、人件費の増加に見合うだけの粗利を確保できているかは確認しなければなりません。
単年では気づきにくい変化も、3期並べることで見えやすくなります。
処方箋1枚当たりの技術料
処方箋1枚当たりの技術料も重要です。
この数字を3期分追うことで、調剤報酬改定の影響や、加算の算定状況の変化を確認しやすくなります。
処方箋枚数は「量」を表す数字です。一方、処方箋1枚当たりの技術料は「単価」を表します。
処方箋枚数だけでなく、1枚当たりの技術料も確認することで、自分の薬局が何によって収益を上げているのか、反対に何が弱くなっているのかを把握できます。
まずは3期分を並べてみませんか
決算書は、1期分だけを眺めても、数字の良し悪しを正しく判断することは簡単ではありません。
まして薬局には、2年に1度の調剤報酬改定という大きな変化があります。
2期比較だけで一喜一憂していると、改定の影響に振り回され、本来見るべき経営の傾向を読み違えてしまう可能性があります。
3期分を並べることで、単年では見えなかった変化が見えてきます。
回復したと思っていた数字が、実は以前の水準には戻っていなかった。
業績が落ちた原因は、直近の改定だけではなく、以前から続いていた患者数の減少だった。
こうした事実に気づくことが、自分の薬局を正しく理解する第一歩です。
「3期分を並べてみたけれど、どのように読めばよいか分からない」
「自分の薬局の数字を、一緒に確認してほしい」
そのような方は、無料相談をご活用ください。
数字が得意でなくても問題ありません。決算書を一緒に並べながら、薬局の現状と、これから確認すべきことを整理していきます。
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