設備投資が「使われないまま」になる理由|発注システムが定着するまで3回かかった経験から

業務を省力化するために、新しい機器を導入する。補助金も活用し、自己資金も投じる。
「これで業務が楽になり、空いた時間を患者さんへの対応に回せる」
そう考えて導入を決めたはずなのに、数か月たっても、現場では以前と同じやり方が続いている。設備やシステムが十分に使われないままになっている。経営相談の中で、そうした話を聞くことがあります。
こんにちは。中小企業診断士・キャッシュフローコーチの梅崎です。薬局経営の現場を経験した後、現在は調剤薬局をはじめとする中小企業の経営改善支援を行っています。
今回は、設備投資を「導入したものの、使われないまま」で終わらせないために、投資を決める前に何を考えておけばよいのかをお伝えします。
実は私自身も、薬局を経営していた頃、発注システムの導入がなかなか定着せず、何度もやり直した経験があります。その失敗から分かったことを、できるだけ具体的にお話しします。
この記事を読むと分かること
・お金をかけて導入した設備が使われなくなる理由
・発注システムが定着するまでに3回かかった経験から分かったこと
・設備投資を決める前に確認しておきたい組織体制と準備
製造業の経営相談で出てきた「使われない設備」の話
先日、製造業の経営相談をしていたときのことです。
「せっかくお金をかけて設備を導入したのに、ほとんど使われていない」
そんな話が出てきました。もったいないですよね。
でも、「買ったのに使われない問題」は、結構あちこちで耳にするんです。
設備は、決算書上では資産として計上されます。しかし、保有しているだけでは利益を生みません。使われなければ、省力化や生産性向上といった期待していた効果も得られません。
投資したお金は出ていったのに、期待していた成果は得られない。数字だけを見れば、会社の負担だけが増えた状態になってしまいます。
これは、補助金を活用した場合も同じです。
補助金によって自己負担額は軽くなりますが、設備が使われなければ成果にはつながりません。「補助金が出るから」という理由だけで導入しても、会社にとって有効な投資になるとは限らないのです。
この話を聞きながら、私は自分が薬局を経営していた頃のことを思い出していました。
私も発注システムの導入で何度も失敗しました
薬局を経営していた頃、医薬品の発注システムや監査機器など、省力化や業務効率化のための設備を導入したことがあります。
業務の負担を減らし、患者さんと向き合う時間をもっとつくりたい。そう考えての投資でした。
ところが、導入したからといって、すぐに現場で活用されたわけではありません。
特に発注システムは、導入しては止まり、やり方を見直して再び挑戦するということを繰り返しました。最終的に定着するまで、3回も導入と失敗を繰り返しました。
システムの機能そのものに大きな問題があったわけではありません。
うまくいかなかった原因は、システムではなく、導入の進め方や組織の側にありました。
会社にはメリットがあっても、スタッフにはメリットがなかった
当時を振り返ると、定着しなかった理由はいくつかあります。
まず、それまでの発注業務が、薬局独自の複雑な仕組みになっていたことです。
長年の経験をもとに、スタッフが工夫を重ねてつくり上げてきた方法でした。新しいシステムに切り替えることで便利になる部分もありましたが、これまでできていたことが、かえってやりにくくなる部分もありました。それに抵抗感を感じるスタッフが、独自のやり方の継続を望んでいたんです。無理強いもできませんから、2回撤退することになりました。
また、会社にとっては効率化というメリットがあっても、スタッフ本人にとっては、メリットがほとんど見えていませんでした。
これまで慣れていた業務の流れを変えなければならない。覚えることが増える。導入直後は操作ミスも起こる。トラブルが起きれば、その対応も必要になる。ミスをするのも、患者さんにご迷惑をかけて申し訳ない気持ちになるのも嫌ですよね。
スタッフから見れば、仕事が楽になるどころか、むしろ手間が増えたように感じていたのだと思います。
効率化のために導入したシステムが、少なくとも導入当初は、現場の仕事を増やしていたのです。
さらに、従来の発注業務には、患者さんや処方内容をよく知るスタッフの経験が生かされていました。
「この患者さんは、そろそろ来局するかもしれない」
「この薬は、次回も処方される可能性が高い」
そうした現場の感覚によって、在庫が調整されていた部分もあります。そのため、経営者である私も、従来のやり方を簡単には否定できませんでした。
仕組みとして正しいだけでは、現場は動きません。現場が積み上げてきた経験や判断を、どのように新しい仕組みに組み込むかまで考える必要がありました。
3回目の導入で変えたこと
現場に合わせて、仕組みのほうを変えた
まず見直したのが、発注を行う時間帯です。
それまでは午後に発注していましたが、午後の勤務者は限られていました。そのため、特定のスタッフにばかり負担が集中していました。
また、発注ミスや在庫不足が起きたときに、「自分の責任だと思われるのではないか」という不安もあったと思います。
そこで、発注の時間を午前中に移しました。特定の人だけに任せるのではなく、複数のスタッフが関われる形に変えたのです。
さらに、従来の発注方法も一部残しました。
すべてを一度に新しいシステムへ置き換えるのではなく、スタッフの経験が生きる部分は残しながら、システムを活用できる部分から切り替えていきました。
現場がこれまで積み上げてきたものを否定せず、新しい仕組みと組み合わせる形にしたことで、受け入れてもらいやすくなったと思います。
経営者である自分の関わり方を変えた
スタッフへの説明の仕方も変えました。
会社にとっての効率化だけではなく、スタッフにとってどのようなメリットがあるのかを伝えるようにしました。
「慣れるまでには時間がかかるけれど、定着すれば発注業務そのものが減る」
「発注に追われる時間が減れば、ほかの業務にも余裕ができる」
そうした導入後の姿を、具体的に言葉にして伝えました。
また、導入を進める責任者は決めましたが、トラブルが起きたときに、その人だけの責任にはしないことも伝えました。
新しい仕組みを導入すれば、最初からすべてがうまくいくとは限りません。慣れるまでの間にミスや混乱が起きるのは、ある程度仕方のないことです。
失敗したら責任を問われると思えば、誰も新しいやり方を試したくはありません。安心して試せる環境をつくることも、経営者の役割だと気づきました。
そして、もう一つ意識したのが、感謝と承認です。
新しい仕組みに対応してくれていること、慣れない中でも取り組んでくれていることを、きちんと言葉にして伝えました。
特別なことではありませんが、これが意外に大きな効果を持ちました。
監査機器の導入でも、最初は混乱しました
監査機器を導入したときも、最初から順調だったわけではありません。
ただし、このときは、導入後の使い方をスタッフと一緒に検討しました。
監査機器を使うことで、投薬ミスによるトラブルを防ぎやすくなる。患者さんの安全につながるだけでなく、スタッフ自身を守ることにもなる。
その意味を理解してもらえたことが、定着につながったのだと思います。
会社の効率を上げるためだけではなく、自分たちの仕事を守るための設備である。この点に納得してもらえたことが大きかったのでしょう。
それでも、導入当初はさまざまな混乱がありました。しかし、話し合いと試行錯誤を重ね、最終的には現場に定着しました。
発注システムと監査機器。うまく定着した二つの導入に共通していたのは、機器の性能から考えるのではなく、実際に使う人にとってどうなのかという視点から考えたことでした。
設備が使われなくなるのには、共通する理由がある
自分自身の経験と、これまで支援先で見てきた事例を合わせると、設備やシステムが使われなくなる理由は、おおむね次のようなところに集まります。
一つ目は、これまでのやり方に慣れており、変えたくないという心理が働くことです。
これは、一部の人に限った話ではありません。人は誰でも、慣れた方法を変えることに負担を感じます。
二つ目は、導入前にスタッフの意見を十分に聞いていないことです。
なぜ導入する必要があるのか。導入によって、どのような状態を目指しているのか。業務の流れはどう変わるのか。スタッフは何を不安に感じているのか。その不安をどのように解消するのか。
こうした点を整理しないまま、経営者だけで導入を決めてしまうと、現場にとっては「突然仕事のやり方を変えられた」と感じることになります。
三つ目は、「導入したので使ってください」と伝えただけで、その後の運用に経営者が十分に関わっていないことです。
導入を進める責任者が決まっていない。決まっていても、必要な権限が与えられていない。問題が起きたときに相談できる相手もいない。
このような状態では、新しい設備やシステムを定着させるのは難しくなります。
投資を決める前に、使いこなす体制があるか
設備投資を検討するときには、機器の性能や価格だけでなく、それを使いこなすための体制も一緒に考える必要があります。
導入前に、少なくとも次の点は確認しておきたいところです。
・設備やシステムを運用できる組織体制があるか
・導入の目的について、スタッフの理解を得られそうか
・必要な知識やスキルを身につけるための教育計画があるか
・誰が導入を進め、定着するまで支援するのか
・うまくいかなかったときに、誰が判断し、責任を引き受けるのか
そして、最も大切なのは、なぜこの投資をするのかを言葉にすることです。
会社として、どのような状態を目指しているのか。その中で、今回導入する設備やシステムがどのような役割を果たすのか。
この目的が共有されなければ、現場から見た設備投資は、単に仕事の手順を増やすものになってしまいます。
設備投資は、導入した時点で終わりではありません。導入後も経営者が関わり、問題を一つずつ解消していくことで、初めて設備が動き始めます。
会社に残ったお金の使い道を考えるときは、体制整備もセットで
私たちキャッシュフローコーチが使用する「お金のブロックパズル」というフレームワークでは、売上高から変動費を引いて粗利を算出し、そこから固定費を引いて利益を確認します。
さらに、利益から税金や借入金の返済額を差し引き、最終的に会社の手元にどれだけのお金が残るのかを、一枚の図で確認していきます。
その残ったお金の使い道を考える際、設備の購入代金だけを見ていては不十分です。
設備やシステムを導入すれば、スタッフが使い方を覚えるための時間が必要になります。教育にも手間がかかります。導入直後には、慣れない作業によって一時的に生産性が下がることもあります。
場合によっては、運用方法を見直したり、追加の研修を行ったりする費用も必要になるでしょう。
こうした導入後の負担まで含めて、投資の効果を検討する必要があります。
体制が整わないまま設備投資をすると、お金は出ていく一方で、期待していた成果が得られません。
手元に残ったお金の使い道を検討する段階から、設備の購入と、その設備を使いこなすための体制整備をセットで考えておく。
それが、投じたお金を実際の成果に変えるための準備になります。
当事務所では、設備投資を行う前に、投資額や期待できる効果、資金繰りへの影響などを数字に基づいて整理する経営相談を承っています。
「導入して本当に効果が出るのか」
「投資した後も資金繰りに無理がないか」
「設備を使いこなすために、どのような準備が必要か」
こうした点を整理し、根拠を持って判断するためにご活用ください。
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