引き継ぐのは財産だけじゃない|薬局の事業承継で本当に大切なこと

「そろそろ会社を継ごうか」。そう思い始めたとき、あなたは借入も含めた会社の現状を、どこまで把握できているでしょうか。
借入がどれくらいあるのか。毎月いくら返しているのか。そして、それをちゃんと返していくには、どれくらいの利益が必要なのか。ご存じですか。
経営状態というのは、良くても悪くても、なかなか言いづらいものです。親としては、経営の中身を子どもに言いづらい。子どもとしても、親の財布の中を探るようで聞きづらい。事業承継には、そういう「お互いの言いづらさ・聞きづらさ」が、いつもつきまといますよね。
こんにちは。中小企業診断士・キャッシュフローコーチの梅崎です。薬局経営の現場を経験したのち、現在は調剤薬局をはじめとする中小企業の経営改善支援を行っています。福岡県の事業承継の公的なアドバイザーもしていて、年に何件か事業承継のお手伝いをしています。
その現場で、何度も感じてきたことがあります。引き継ぐ前に、会社の数字ときちんと向き合っておく。たったそれだけで、承継したあとに「こんなはずじゃなかった」と後悔する場面を、ずいぶん減らせるんです。
この記事を読むとわかること
・薬局の後継者が、会社の数字を知らないまま継ごうとすることのリスク
・先代と後継者のあいだに生まれる「危機感のズレ」の正体
・腹が決まったあと、何から準備し、どこに相談すればいいのか
決算書を見たことがない薬局の後継者は、実はとても多い
親族内の承継のご相談を受けていて、よく感じることがあります。後継者の方が、会社の経営状態や財産について、ほとんど知らないんです。
半数以上の方が、決算書を見たことがない。あるいは、さらっと見た程度。これが、私の現場での実感です。
無理もないのかもしれません。決算書は、見てもよく分からない。だから税理士さんが毎月持ってきても、もらった封筒のまま置いてある。そんなご家庭、きっと多いと思います。
見るとしても、せいぜい売上と利益がどのくらいか、確認するくらい。資金が足りているかどうかまでは、見ていないことも多いんじゃないでしょうか。
見てしまうと、怖い。そんな気持ちも、どこかにあるのかもしれませんね。
借金の額を知らないまま、薬局の社長になる怖さ
赤字や借入の多さが、どれほど重い意味を持つのか。それを分からないまま育ち、修行を経て戻ってくる。社内で立場が上がって、「そろそろ継ごうか」という段階に来る。
そして承継の直前になって、ようやく決算書を開く。すると、思っていたよりずっと厳しい数字が並んでいたりします。
「このまま事業を引き継ぐと、相当な努力が要りますよ。」正直、そう思ってしまうこともあります。
私は経営改善(融資や資金繰り支援)ので、二代目・三代目の方をご支援することがあります。でも、その方々のほとんどが、親の作った借金の額を知らないまま引き継いでいる。そして社長になってから、「うちにこんなに借金があったのか」と驚かれるんです。
長く残る借金を背負うというのは、大変なことです。だからこそ、その覚悟を持てるかどうかは、本当に大事になってきます。そのためにも、まずは知っておかないといけませんよね。
じつは、私の実家も、父から兄へ事業承継をしました。
承継の前は、父が店から帰ってきて、その日の売上金を、お金の管理をしていた兄に渡す。それで会話が終わり、というような状態でした。
いざ話をしようとすると、世代も考え方も違うので、話しづらい。話すと喧嘩になってしまうのが嫌で、だんだん話さなくなる。
そんな時は第三者が間に入ると、意外とスムーズにいきます。
専門家は現経営者と後継者の橋渡し役でもあるのです。
現経営者と後継者で「危機感」がズレている場合も・・・
もうひとつ、お伝えしておきたいことがあります。先代と後継者のあいだにある、危機感のズレです。
危機感が薄いのは後継者のほう思われがちです。でも、必ずしもそうとは限りません。
むしろ、経営が厳しい事業を引き継ぐ場合ほど、先代のほうの危機感が薄いように感じます。これまで何度も乗り越えてきた成功体験があるので、「これくらいなら、まだ全然大丈夫よ」と考えている。
でも、後継者から見ると、「いや、時代が全然違う。もう、そんな時代じゃないよ」と思える場面がある。
ここに、認識のギャップが生まれます。どちらが正しい、という話ではありません。まず、お互いの見ている景色が「ズレている」と気づく。そして後継者が中心となって、これからの事業をどう作るかを考える。現経営者は支えるつもりで見守るというのが大事だと思います。
引き継ぐのは、財産だけじゃない
承継で引き継ぐのは、お金やものだけではありません。信頼や人脈といった、目に見えない資産もあります。
経営者が代わると、金融機関とのお付き合いも変わる。そんな話を、私はよく耳にします。だからこそ、腹が決まったら、顔つなぎや信頼関係づくりも含めて、しっかり準備をしておいたほうがいい。信頼というのは、一度途切れるとやり直しになることもあって、その損失は、けっこう大きいんです。
腹が決まったら、現状把握と準備を始めよう
私がお勧めしたいのは、こうです。
まず、数字も含めて、現状をしっかり把握する。借金があるなら、それをどう返していくのかを自分なりに考えて、腹落ちしてから取り組む。
そして、腹が決まったなら。引き継ぐまでの間に、会社を少しでもいい状態にしていく。
借金だけではありません。財産があるならあるで、引き継ぎ方の課題があります。いろいろな制度を使いながら進めたほうが良いことも多いでしょう。
状況によって、準備しておくことも、力を借りる相手も変わってきます。資産があって税金がかかりそうなら、税理士さん。不動産があれば、不動産に詳しい専門家。遺言や相続がからむなら、その分野の専門家。それぞれの支援を受けましょう。
家族や親族の理解も必要です。ここも、専門家と相談しながら進めてください。
あわせて、承継したあとの事業計画も、きちんと考えておきたいところです。これからの事業環境はどう変わっていくのか。その環境の中で何をやっていくのか。
時代に合わせて変えて良いものは何か。時代に左右されず変えてはいけないものは何か。顧客に評価されているところや信頼の源になっているものは何か。大切にしてきた価値観は何かなども、きちんと話し合っておきたいですね。
「思っていたようにはならない」こと、本当に多いんです。なんとなくで進めていくと、お金がどんどん減っていって、「こんなはずじゃなかった」となる。
だからこその、計画です。いつ頃までに承継するのか。財産はこう引き継ぐ。仕事はこう譲っていく。周りとの信頼や人脈は、こう高めていく。締め切りを決めて、進めていったほうがいいですよね。
困ったときは、まず相談してほしい
ここまでお読みになって、「やることが多いなあ」と感じられたかもしれませんね。
正直にお話しすると、私はすべての分野の専門家ではありません。不動産には詳しくありませんし、相続や遺言、税のことは、それぞれの専門家が関わる領域です。
私がお力になれるのは、ビジネス上の課題がどこにあるのか。後継者をどう育てていけばいいのか。そういった、中小企業診断士としての部分です。実際に、そうやってご支援をさせていただいています。
ですから、まずは入り口として、私にご相談いただく。そこから、必要に応じて、それぞれの専門家のところへおつなぎする。事業承継については、わりとそういう流れがいいんじゃないかな、と思っています。
もちろん、お近くの公的機関に「事業承継のことで相談したいんですが」と声をかけて、公的な支援を受けるのもいい方法です。場合によっては、補助金が活用できることもあります。せっかくですから、そういったものも、上手に使ってくださいね。
親子間で、お金や財産の話はしづらいものです。でも、きちんとしておかないと、後から「やめておけばよかった」では済まないことも多いんです。
そして、とにかく早めに動いてください。時間が経って、不利益を被ることがほぼ確実になってから、ご相談に来られる方がいます。でも、その段階では、私でもどうにもできないことが多い。法的にも、もう手の打ちようがない場合さえあるんです。
「継ごう」という気持ちがある程度固まったら、その時点で、会社の現状をきちんと確認しておく。言いづらくても、聞きづらくても、早めに。それが、後悔しない承継への、いちばんの近道だと私は思います。
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