急成長している薬局こそ要注意。「入り」と「出」のタイムラグが招く資金繰りの苦しさ

売上は伸びている。応需する処方せん枚数も順調に推移しているのに、なぜか手元にお金が残らない。むしろ以前より苦しくなっている気がする——そんなことはありませんか。
こんにちは。中小企業診断士・キャッシュフローコーチの梅崎です。薬局経営の現場を経験したのち、現在は調剤薬局をはじめとする中小企業の経営改善支援を行っています。
その原因は、入金と出金のズレかもしれません。この記事を読むと、なぜかお金が残らない理由と今日から始められる対処法が見えてくると思います。
この記事を読むとわかること
・急成長している企業ほど、資金繰りに注意が必要な理由
・薬局でも同じ構造が起こりうるポイント
・今日からできる、資金繰りを把握するための最初の一歩
急成長している事業所で、実際に起きていた資金繰りの課題
最近、ある事業所を経営されている方からご相談を受けました。介護系の事業所で、創業以来かなりの速度で成長を続けてきた会社です。介護も調剤薬局と同様、人の手がないと事業が成り立たない業種です。いわゆる労働集約型の事業というやつですね。利用者さんの依頼を確保できるのなら、あとはサービスを提供する人が増えれば増えるほど売上も伸びます。ただしその分、人件費も増えていきます。
この方は、もともと勤務時代に「もっと利用者さんに寄り添ったサービスを提供したい」という思いで独立され、少人数でやっていた頃は経営も順調でした。ところが事業拡大のために人を雇っていくと、そうも言っていられなくなりました。有資格者を含めて人を増やさなければ事業が成り立たない。そのうえ、成長すればするほど人件費が先に膨らんでいく。なにせ、介護報酬は末締めの翌々末頃の入金ですが、給料はそれより先に発生しますからね。
その結果、手元のお金が減少していきました。役員報酬が思うように出せなくなり、ご自身の生活費の支払いにも影響が出るような状況になって・・・。金融機関にちょこちょこお金を借りに行かなければならなくなる。赤字が出て、支払いに必要な資金が足りなくなる。それでも売上を伸ばそうとさらに人を雇うと、先にお金が出ていくため、かえって苦しくなる——そんな悪循環に入ってしまったそうです。
想定していた役員報酬を実際に満額取ってしまうと会社のお金が足りなくなる、逆にご自身の個人財産を会社に入れないと支払いや返済が間に合わない、というケースは、非常によく遭遇します。自己資金を会社に入れなければ回らない状況になってきたら、正直かなり危険なサインです。本来、自己資金を投入するのは最後の最後に取っておくべき「奥の手」であり、そこに手をつけざるを得なくなっている時点で、資金繰りはかなり厳しい局面に来ていると考えた方がいいと思います。
「入り」と「出」のタイムラグが、資金繰りを圧迫する
調剤報酬であれ介護報酬であれ、入金されるのは2ヶ月後。対して、人件費はすぐから出ていきますよね。月によってはボーナスもありますから、この入りと出のタイムラグが、資金繰りをじわじわ圧迫していくわけです。
気を付けたいのは、損益計算書は、実は実際のお金の増減とはリンクしていません。ですから「利益は出ているはずなのに、お金がない」「利益は出ているはずなのに、役員報酬が満額取れていない」ということが普通に起こり得ます。資金繰り表は、実際のお金の動きをそのまま見える化したものなので、どのタイミングでお金が大きく出ていっているのかが、はっきり見えてくるんですよね。
実績表を見ると、何が起きているかが分かる
さて、冒頭の事業所さんですが、資金繰りの実績表を作ってみると、いくつかのことが見えてきました。例えば、想像通り人件費が増加したタイミングで手元資金がぐっと減り、その後売上増加である程度追いつくものの、賞与のタイミングでまた資金が減る。そういう波を繰り返していることが、実績表からは見えてきました。
薬局でも同じですね。人を雇うなどの固定費が上がる局面は、資金繰りを圧迫しやすいポイントです。人件費は一度上げると簡単には下げられないので、特に注意が必要になります。ボーナス、機械の購入、ホームページ制作など、まとまった金額がぽんと出ていくタイミングも同じです。一度お金が大きく減ると、回復するまでに時間がかかる場合は、資金繰りがより危うくなっていきます。
こうした実績表を経営者ご本人に見ていただくと、「こんな風にお金が出ていっていたのか」と、数字を通じてはじめて実感を持たれることが多いです。原因が分かれば、そこを改善すればいいというのが見えてくるので、かえって気が楽になった、これからどうしたらいいか考えやすくなった、とよく言われます。創業してまだ間もない経営者や、事業を引き継いだばかりの後継者の方は、こうした資金繰りへの意識がまだ向いていないことも少なくありません。
薬局にも、資金繰りの課題は発生しうる
これは薬局にとっても、決して遠い話ではありません。薬局の場合、お薬の仕入れでも、資金繰りの課題が起こり得ます。調剤報酬が入金されるのは、調剤月からおおむね2ヶ月後です。もし仕入れの支払いの方が先行しているようなら、処方箋の応需数が増えれば増えるほど、資金繰りはどんどん苦しくなっていきます。実際、高額な薬が大量に処方されるようになったために、資金繰りがたちいかなくなった薬局もあります。また、新規開局のための物件取得費がかさみ、返済負担が重くなって苦しんでいるところもあります。
薬局の場合、人を採用するとき、機械をリースではなく購入するとき、ホームページを新しく作るときなど、50万円、100万円といった単位でまとまったお金が出ていくタイミングがあります。そうしたタイミングで、手元資金が本当に足りるのかどうかを、ある程度事前に見ておく必要があります。
特に創業してまだ間もない時期は、いつ、どれだけお金が出ていくのか、税金がどのタイミングで来るのかが、まだ十分に把握できていないこともあります。事業承継を考えている場面で、後継者がまだ経営のことをよく分かっておらず心配、というケースもしょっちゅう耳にします。
そのような場合にも、資金繰り実績表を作ってみることは役に立ちます。創業したての時期や事業承継を控えている時期こそ、お金の「入り」と「出」にタイミングのズレがあることを、理解しておくことが大事だと思います。
売上が伸びているのに、なぜか手元のお金が減っていく。その正体は、こうした「入りと出のタイムラグ」であることが少なくありません。
まずは、資金繰り実績表から
もし、人がどんどん増えている、あるいは仕入れがどんどん増えているという心当たりがあれば、まず資金繰りへの注意意識を持ってみてください。
「お金がなぜか残らない」「支払いのたびに不足感がある」——そう感じるようであれば、資金繰り実績表を作ってみることから始めてみましょう。実績表を作ると、自社のお金の動きがどうなっているのか、はじめて客観的に見えてきます。
実績表の次は、資金繰りの予測へ
実績表で現状を把握できたら、そこで終わらせず、ぜひ資金繰りの予測にもつなげてください。これ以上人を増やしたらお金の動きはどうなるか。在庫をこのペースで増やしたらどうなるか。予測してみることで、先の危険が具体的に見えてきます。
別にご支援している、サロン・治療院系のビジネスのケースでは、資金繰りの予測を立てたことで、返済が滞らないようにするには生活費をどれくらいに収めておくべきか、目安が見えてきました。設備投資をする際にも、そのタイミングでお金が大きく減った後、投資を回収するまでの間、資金が持つかどうかを計算しやすくなった、ということもありました。
「加算を取らないと人件費が回収できないかもしれない」「処方箋数をいつまでにどれくらい増やす必要があるか」「このペースで在庫を増やすと、ボーナス時期に返済が苦しくなるかもしれない」——そういったことが、数字として見えてくるんです。
そうすると、手を打つ順番そのものが変わってくることがあります。「今は人を増やすより先にキャッシュを貯めておく方がいい」「先に資金調達できる体制を整えておこう」といった判断ができるようになります。お金が出ていくタイミングと入ってくるタイミングをあらかじめ理解しておくことで、先々お金が足りなくなるという事態を避けやすくなるんですよね。
急成長は、注意が必要なサインでもある
急成長は、経営者にとって嬉しい結果です。同時に、資金繰りの面では注意が必要なサインでもあります。資金繰り実績表で現状を知り、資金繰り計画で先を見通す。この2つの取組で、より安全に成長していくことができます。
「売上は伸びているのに、なぜかお金が残らない」——そんな心当たりがある方は、まずは資金繰り実績表を作るところから始めてみませんか。数字を眺めてみるだけでも、見えてくるものがきっとあります。
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