2026-07-02

試算表は月次の健康診断書——薬局経営者がまず見てほしい数字の話

試算表、税理士の先生からもらったまま、棚に眠っていませんか。

「数字は税理士に任せているから」という経営者の方にもよくお会いします。決算書を年に一回見るだけ、あるいは半期の仮決算をざっと確認する程度、という方も少なくありません。でも、それでは必要な手を打つタイミングが遅れてしまうことにつながりかねません。

こんにちは。中小企業診断士・キャッシュフローコーチの梅崎です。薬局経営の現場を経験したのち、現在は調剤薬局をはじめとする中小企業の経営改善支援を行っています。

試算表は毎月の経営状態を映し出す「月次の健康診断書」です。年に一回の健康診断だけでは、その間に進行していた異変を見逃してしまうことがあります。経営も同じで、毎月の数字を確認することで、問題の芽を早い段階でつかむことができます。今回は、毎月の試算表でぜひ確認してほしい4つのポイントをお伝えします。

試算表は「月次の健康診断書」

試算表は、貸借対照表と損益計算書を1ヶ月単位でまとめたものです。決算書が「1年間の最終結果」を示すのに対して、試算表は「今この瞬間の途中経過」を確認できます。

問題が起きてから気づくのと、兆候の段階で気づくのとでは、対処できる選択肢の数がまったく違います。試算表を毎月確認する習慣は、そのための「早期発見の仕組み」です。

また、金融機関から融資を受ける際に直近の試算表の提出を求められることも多くあります。毎月きちんと確認している経営者は、数字の動きを自分の言葉で説明できます。その姿勢そのものが、金融機関からの信頼につながります。

薬局経営者がまず見てほしい4つのポイント

① 売上高——数字の「方向性」と「中身」を見る

売上高は、前月と比べてどうか、前年の同じ月と比べてどうか、この2つの視点で見てください。調剤報酬改定の影響もありますので、前年同月との比較は特に参考になります。

ただ、売上の数字だけを見て安心するのは危険です。売上が増えているとしたら、その理由は何でしょうか。応需処方箋枚数が増えているのか、処方箋単価が上がっているのか。高額薬剤がたまたま多く出ているだけなら、収益への貢献は限定的です。

逆に売上が下がっているなら、処方箋枚数が減っているのか、リピートしてくれる患者さんが減っているのか、取れていた加算が取れなくなっていないか——原因を探ることが大切です。増えていても減っていても、「なぜそうなっているのか」を考えるきっかけとして、毎月の売上高を見てほしいと思います。

② 粗利——薬局では特にここに敏感でいてほしい

薬局の粗利は、「薬価差益」と「技術料(調剤報酬)」の2つで構成されています。薬価差益とは、国が定めた薬の値段(薬価)と実際の仕入れ価格との差から生まれる利益のことです。

この薬価差益は制度改正のたびに圧縮される方向にあり、技術料も調剤報酬改定の影響を直接受けます。取れていた加算が取れなくなったり、改定で加算額が減ったりすると、粗利はすぐに下がります。

一方で、固定費はそう簡単には下がりません。むしろ昨今の賃上げの流れの中で、人件費は増えやすい状況です。粗利が下がっても固定費はそのまま、あるいは増える——これが薬局経営を苦しくする構図です。

さらに厄介なのは、対策を打ってから実際に収益が回復し、現金として手元に戻ってくるまでに数ヶ月かかるということです。粗利が下がってから動き始めたのでは、すでに遅い。そういう性質のものです。

だから粗利には、早めにセンサーを張っておいてほしいのです。毎月の粗利の動きを見ていれば、「何かがおかしい」というシグナルを早い段階でキャッチできます。

③ 経常利益——「粗利は大丈夫なのに利益が下がっている」に気づけるか

経常利益を見る理由は、粗利だけでは見えないことがあるからです。

粗利が前月と変わっていないのに経常利益が下がっている。そういうときは、固定費のどこかが増えていることを意味します。人件費なのか、家賃なのか、リース料なのか——どのコストが上がっているのかを探るきっかけになるのが、経常利益の変化です。

逆に、粗利が下がっているのに経常利益がさほど変わっていない場合は、固定費が抑えられているということです。

粗利と経常利益をセットで見ることで、「収益側の問題か、コスト側の問題か」を切り分けることができます。プラスかマイナスか、そして前月・前年同月と比べてどう動いているか。この2点を毎月押さえておくようにしてください。

④ 現預金——今の残高で、これからを乗り越えられるか

現預金については、残高がいくらあるかと、それが増えているのか減っているのか、この2点を確認してください。

手元資金の目安として、固定費の6ヶ月分を置いておくことをお勧めしています。感染症の流行や災害など、売上が突然落ち込む事態が起きても、一定期間は経営を維持できる備えとして考えてほしい金額です。薬局の場合、薬剤費という大きな変動費がありますが、レセプトの入金を確認してから支払う運用をしているところが多く、変動費の大部分は実質的にカバーされます。だからこそ、固定費ベースで考える方が実態に合っていると私は思っています。

現預金が返済を続けながら少しずつ増えているなら、経営は健全な方向に向かっています。一方、月を追うごとに減り続けているなら、早めに手を打つ必要があります。

また、近い将来に大きな出費が見込まれる場合——機器の修繕や店舗の改修、ボーナスの支払いなど——今の残高でそれを賄えるかどうかも、あわせて確認しておきたいところです。

本当は資金繰り表も作ってほしい

試算表で現預金の動きを確認することはできますが、「これからどうなるか」を見通すためには、資金繰り予定表が必要です。

いきなり「予定表」を作ろうとして手が止まってしまう方が多いのですが、まずは「実績表」から始めると感覚がつかみやすくなります。過去の入出金の実績を記録していくうちに、自社のお金の流れのパターンが見えてきます。「毎月この時期に大きな支払いがある」「この月は入金が遅れやすい」——そういったことが見えてくると、予定表を作るための土台ができます。そこから先のステップは、思ったよりもスムーズです。

試算表を眺める時間が、経営を変える

試算表のすべての数字を理解する必要はありません。売上・粗利・経常利益・現預金、この4つに絞って毎月確認するだけで、経営の現状把握はずいぶん変わります。

大切なのは、数字を「見せられるもの」ではなく「使うもの」にしていくことです。毎月試算表を手に取り、先月と何が変わったのかを確認する。その積み重ねが、問題を早期に発見する力になり、金融機関や取引先との信頼にもつながっていきます。

「気づいたときには手遅れだった」という状況を防ぐために、まず試算表を月に一度、手に取ってみてください。数字は、見る人を必ず助けてくれます。

経営の数字についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

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