税理士の先生に任せていれば大丈夫?——経営者が自分で持つべき数字の感覚
仕事柄、様々な経営者さんとお話しする機会があります。
当然、数字面についてお聞きすることも多々あります。
その時、皆さん売上についてはサッと数字が出てくるんです。

でも、そこから先が出てこないことが多いんです。
売上の先に、本当の経営がある
調剤薬局であれ他の事業であれ、事業を続けるには数字を見ないわけには行きません。
売上は分かりやすいので、ほとんどの方がチェックしています。
でも、売上って見せかけの収入なんです。
売上が上がっていたとしても、利益が増えているとは限りません。
返済原資が足りているか、先々の出費に耐えられるかは分かりません。
例えば、高額なお薬の処方せんを1枚応需したとしましょう。
すごく高い薬が処方されていたら、その月の売上は大きく増えますよね。
でも薬局の利益の源泉は、処方せん1枚あたりの技術料です。
高額なお薬の処方せんが1枚増えても、一般的な処方せんが何枚も減ってしまったら、利益はむしろ下がります。
売上だけ見ていても、経営状況が良いかどうかは分かりません。
他にも利益に影響する要因はたくさんあります。
経費はどうでしょう。利益は?
借入金があるなら、手元の現金の動きもチェックしておきたいところです。
「数字のことは税理士の先生に任せている」とおっしゃる経営者さんも、とても多いんです。
数字が「難しい」「よくわからない」と感じて、売上以外は見るのを避けてしまう。その気持ちはよくわかります。日々の調剤業務だけでも忙しいのに、財務の数字まで追うのは正直しんどいですよね。
ただ、経営者が数字を見ない状態が続くと、何が起きるか。今日はそのことをお伝えしたいと思います。
じわじわ悪化する——気づいたときには遅い
調剤薬局の経営で怖いのは、「じわじわと」悪くなっていくパターンです。
べた取りできていた加算が取れなくなるなど、一気に大打撃をこうむるような変化は気づきやすいですし、「急いで対策を取らなきゃ!」という気にもなります。
でも、例えば薬価差益がじわじわ減る。
賃上げ対応で人件費がじわじわ増える。
電気代や車両費がじわじわ増える。
このようなちょっとずつ起きる変化は気づきにくいものです。
それが利益にどれだけ影響しているかを、数字で把握できている経営者はほとんどいません。
なんとなく苦しさを感じていても、深くは追及しない。
そのままどんどん厳しくなって、気づいたときにはゆでガエル状態。
調剤薬局は売上の6割以上を薬代が占めている業界です。
仕入れ値が数パーセント動くだけで粗利率は大きく変わります。
加算が取りにくくなれば、処方箋1枚あたりの収益は下がります。
それでも日々の業務は変わらない。スタッフも頑張っている。
売上の6割以上が薬代なので、売上もそれほど落ちていないとなると、気づけないこともあるのです。
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結果として、いつの間にか利益が減り、手元の現金も減っていく。
借入返済がある場合は、返済原資が足りなくなっていく。
「なんか最近苦しいな」という感覚が続いて、気づいたときにはお金がない。
金融機関に赤字補填のための借入を相談する羽目に……。
私のところにご相談が来るのは、そんなケースも多いのです。
正直に言えば、その段階ではすでにかなり追い詰められていることがほとんどです。
ご本人は「まだ大丈夫」と感じていても、客観的に見ると相当厳しい状況にあることがあります。
早く気づいていれば、打てる手はたくさんあります。
でも、数字を見ていないと、どこが悪くてどう改善すべきかが見えない。
それが一番の問題です。
税理士任せでは、経営判断はできない
誤解してほしくないのですが、税理士の先生を頼ることは全然問題ありません。
財務の専門家ですし、あなたの薬局のことも良く知っています。
記帳や申告、税務上のアドバイスは税理士さんにお願いするべきです。
私もよく相談しています。
ただ、税理士の先生が「経営判断」を代わりにしてくれるわけではありません。
「今月は利益が下がっていますよ」と報告してもらうことはできます。
でも「だからどう動くか」は、経営者自身が決めることです。
どの経費を見直すか。どのサービスを強化するか。スタッフをどう配置するか。
そういった判断を下せるのは、現場を知っている経営者だけです。
最終的な責任を負うのは、経営者自身です。
だからこそ、数字は「見てもらう」だけでなく、「自分でも読める」状態にしておく必要があります。
まずこの3つを見てほしい
「では何を見ればいいのか」という話をします。難しい指標を全部追う必要はありません。まずはこの3つです。
簡易キャッシュフロー——投資や返済に耐えられるか確認するために
「税引き後の利益に減価償却費を足したもの」です。これが借入返済の原資になります。
毎月の返済額と比べて、余裕があるかどうかを確認する習慣をつけてください。
利益が出ていても、この数字が返済額を下回っているようであれば、じわじわとお金が減っていきます。
もちろん設備の更新やビジョン実現のための投資もできません。
粗利率——収益の土台が崩れていないか確認するために
売上に対して、医薬品の仕入れ原価がどのくらいの割合かを確認してください。
調剤薬局は原価率が高い業種なので、わずかな変化が粗利に大きく影響します。
地域支援・医薬品供給対応体制加算のような、処方箋1枚あたりにベースとして乗ってくる加算が取れなくなると、粗利率は一気に下がります。取るべき加算はしっかり取ることが、収益を守る上で欠かせません。
変化に早く気づけるよう、粗利率は月次で追いかけておきたいですね。
人件費率(労働分配率)——人件費の増加が利益を圧迫していないか確認するために
売上または粗利に対して、人件費がどのくらいの割合かを見てください。
薬局は薬剤師さんや調剤事務さんがいて初めて成り立つ事業です。
粗利に対する人件費の割合(労働分配率)が65%以上になる業種でもあります。
賃上げや採用の影響がもろに出るので、影響を把握しておきましょう。
この数字が上がっているのに気づかないまま経営していると、利益はじわじわ削られていきます。
現金の動きや将来の資金繰り予測も本来は持ってほしいところですが、これは少しハードルが高いので、まずは上の3つから始めてみてください。
数字を守ることは、人を守ること
経営の数字を見ることは、決して「お金のためだけ」ではありません。
経営が苦しくなると、スタッフへの適切な待遇が保てなくなります。
設備への投資もできなくなります。
目指したい薬局の姿=ビジョンの実現も遠のきます。
最終的には、患者さんへのサービスの質にも影響します。
薬局は地域に必要なインフラです。その経営を守ることは、そこに来てくれる患者さんを守ることでもあります。
だからこそ、経営者自身が数字を持つことが大切なんです。
細かなところは税理士の先生に任せつつ、経営数字の大枠は自分で把握しましょう。
それが健全な経営の第一歩だと、私たちは考えています。
まず今月の試算表を開いてみてください。
簡易キャッシュフロー、粗利率、人件費率。
この3つを確認するだけで、経営状況がつかめます。
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