調剤薬局の現預金はいくら必要?「月商比率1.86倍」が示す安全ラインを解説

【この記事を読むとわかること】
- 調剤薬局が現預金をいくら持っておくべきか
- チェックしておきたい指標の計算方法
- 「赤字だから倒産する」は誤解——薬局が倒産する本当の理由と現金確保の重要性
「うちの薬局は大丈夫」って、本当ですか?
薬局を経営していると、日々の調剤業務や患者対応に追われ、「お金の管理は税理士に任せているから大丈夫」となりがちですね。
特に患者さん対応を頑張っている薬局さんほど、お金のことを考える暇がなかったりします。
でも、気がついたら現金が危うくなっていた、ということがあり得るのです。
こんにちは。
中小企業診断士・キャッシュフローコーチの梅崎です。
薬局経営の現場を経験したのち、現在は調剤薬局をはじめとする中小企業の経営改善支援を行っています。
仕事柄、多くの薬局の決算書を拝見しますが、現預金の量は薬局によって本当に千差万別。
現金が多い薬局は少々の逆風でもびくともしませんが、現金が少ない薬局は小さなトラブルでもあっという間にピンチになる可能性があります。
そこで今回は、薬局経営者に知っておいてほしい「現預金をどれくらい持っておけば良いの?」というお話しをさせていただきます。
現金が多い薬局・少ない薬局——明暗を分けるのは「意識」の差
現金預金が多い薬局が経営上困ることは、基本的にほとんどありません。
強いて言えば、設備投資や人材育成にまったく投資せずにただ貯め込んでいる場合や、資産が膨らみすぎて事業承継の際に税務的な問題が生じるケースがあるかもってくらいでしょうか。
事業承継を検討している薬局経営者さんは、早めに税理士へ相談してくださいね。
問題は、現預金が少ない場合です。
現金が少ない状態での経営は、ホント綱渡りです。
何か一つトラブルが起きると、たちまち資金繰りに窮することになります。
企業は「赤字」ではなく「現金がゼロになったとき」に倒産する
経営者の多くが「赤字になったら会社はつぶれる」と思っています。
しかし実際には、赤字だから倒産するのではありません。
企業が倒産するのは、支払うべきお金が用意できなくなったときです。
逆に言えば、赤字が続いていても手元に現金があり、仕入れ代・人件費・家賃などの支払いを続けられる限り、企業は存続します。
一方で、黒字なのに倒産してしまう「黒字倒産」も存在します。
売上が上がっていたり、利益が出ているように見えても、入金と支払のタイミング次第では現金が底をついてしまうケースがあります。
実際、このケースで倒産した薬局もあります。
「利益があれば安心」ではなく「現金があれば安心」——この認識の転換が、安定した薬局経営の第一歩です。
いくら持っておけばいい?「現金預金対月商比率」で今すぐ確認しよう
では、手元にいくらの現金を置いておけばよいのでしょうか。
その目安となる指標が「現金預金対月商比率」です。
手元流動性比率とも呼ばれます。
計算方法は非常にシンプルです。
現金預金 ÷ 月商(年間売上 ÷ 12)= 現金預金対月商比率
※すぐお金にできる有価証券等も現金預金に含める場合もあります。
一般的な目安は次の通りです。
| 比率 | 状態 |
|---|---|
| 3.0以上 | 非常に安心 |
| 2.0〜3.0 | 理想的な水準 |
| 1.0〜2.0 | 最低限の安全圏 |
| 0.5〜1.0 | 要注意——早めの対策を |
| 0.5未満 | 危険水域——今すぐ対策が必要 |
業種別審査辞典(日本最大級の業界データブック)の2022年データによると、調剤薬局の平均は次の通りでした。
- 現金預金:約4,535万円
- 年間売上高:約2億9,236万円 → 月商:約2,436万円
- 現金預金対月商比率:約1.86倍
業界平均が1.86倍というのは、まずまず健全な水準といえます。
ただし、これはあくまで「平均」なので、ご自身の薬局の数字をチェックしてみてくださいね。
調剤薬局が特に現金を必要とする3つの理由
調剤薬局には、他の業種以上に現金確保が重要な理由があります。
① 薬代を先に払って、調剤報酬はあとで受け取る
薬局は医薬品を仕入れ、調剤・提供し、保険請求をして初めてお金が入ります。
つまり、薬の仕入れ代金は先に立替払いが基本です。
その間の資金を手元に持っておく必要があります。
② 低い営業利益率——利益でカバーできる余地が小さい
さっきのデータによると、調剤薬局の平均営業利益率はわずか1.2%です。
売上の98.8%がコストとして出ていくわけです。
現金が十分にないと、一気に支払いに窮する可能性があるのです。
利益を積み上げて現金を増やすには長い時間がかかります。
だからこそ、普段からの資金管理が欠かせません。
③ 高額医薬品リスク——仕入れコストが突然膨らむことがある
近年、がんや難病などに使われる高額な医薬品の処方が増えています。
1錠何万円なんてお薬もありますよね。
こうしたお薬のの処方が急増すると、一時的に仕入れコストが激増し、現金が一気に流出することがあります。
「まさか」は必ずやってくる——薬局経営者が知っておくべきリスク
少し私自身の経験をお話しします。
薬局の店長をしていたとき、レセプトのオンライン送信でミスを犯したことがあります。
データが正常に送れておらず、締切日の翌日に国保連から連絡が来て発覚しました。
慌ててデータをフロッピーに書き込んで直接持参し、なんとかことなきを得ました(笑)。
もし連絡が来なかったら、あるいは対応が間に合わなかったら
——入金が丸ごと1か月遅れていたかもしれません。
その1か月、手元に現金がなければ「詰み」です。
こんなおバカなミスはそうそう無いかもしれません。
が、想定外のリスクはいつでも起こり得ます。
コロナ禍のリスクでは、感染拡大の影響で閉局を余儀なくされた薬局が出ましたよね。
閉局している間も家賃や人件費は発生します。
自然災害による一時閉鎖も同様です。
手元に現金がなければ、再開のための費用すら捻出できません。
現金が不足する事態は、予兆があっても動き始めてからの進行が早いんです。
「まだ大丈夫」と思っているうちに、手の打ちようがなくなることが、本当にあるのです。
現預金が少ないときに今すぐできる2つの対策
現預金が月商の0.5倍を下回っている場合は、早急に対応が必要です。
対策は大きく2つ。
対策①:自力でお金を積み上げる
日々の収支を見直し、無駄なコストを削減しながら利益を着実に積み上げていきます。
ただし、利益率が1.2%という水準では、これだけで急速に現金を増やすのは、正直困難です。
だって利益が1.2%しかないわけです。
全額ためておいたとしても、1か月分の売上をためるのに8年はかかります。
継続的な努力が必要ですが、他の方法も併せて考えましょう。
対策②:金融機関から資金調達する
金融機関からの融資を検討するのもアリです。
ここで重要なのは「お金がなくなる前に借りる」こと。
資金繰りが苦しくなってから借りようとしても、審査が通りにくくなることがあります。
手元にまだ余裕があるうちに動き出すことが、安定した資金調達のコツです。
日常的に「キャッシュ残高」を確認する習慣を持とう
経営を安定させるためにできる、最もシンプルな行動があります。
それは定期的に現預金残高を確認することです。
毎月1回でもよいので、以下の3点をチェックする習慣をつけましょう。
- 今月の現預金残高はいくらか?
- 月商と比べて何か月分に相当するか?
- 来月以降に大きな支払いはあるか?
「なんとなく大丈夫だろう」という感覚的な経営から脱却し、数字で経営状態を把握することが、薬局を長く守るための基盤になります。
まとめ:薬局経営を守るキャッシュの鉄則
今回お伝えした内容を振り返ります。
現預金の目安は最低でも月商の1か月分、できれば2〜3か月分です。
企業が倒産するのは赤字だからではなく、支払うお金がなくなったとき。
このことを忘れずに、普段から現金預金対月商比率を意識した経営を心がけてください。
もし現預金が月商の0.5倍を下回っているようであれば、今すぐ対策を検討しましょう。
資金繰りに不安を感じている方、自社の比率を一緒に確認したいという方は、ぜひ無料相談をご活用ください。
地域医療に専念できる安定した経営環境を、一緒に作っていきましょう。
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